162418 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

ナラティヴ ひとり語り

ナラティヴ ひとり語り

・・・『アンネの童話集』

アンネ・フランク作『アンネの童話集』

 4年生の頃,アンネの伝記を読んだ娘は「どうしてユダヤ人ってあんなにいじめられなきゃならなかったんだろう」と沈んでいたことがあった。私達キリスト者にとってユダヤ人問題は避けて通れない事柄だ。けれど,そのアンネの伝記ではなく,アンネの日記でもなく,アンネの童話集を私は紹介したいと思う。
 私が持っているのは,1987年に小学館から発行された初版第一刷のものだ。『アンネの日記』も,家族の中でただ一人生き残った父親のオットー・フランクの手によって世に出されたという事だが,この本の初めにも「日本のみなさんへ」というオットー・フランクの文章が載せられている。その中に、隠れ家生活で外界の習慣や生活を忘れてしまったアンネが創作に苦心していたということが書かれている。牧野鈴子さんの挿し絵が施された、木島和子さんの訳によるこの本はすでに絶版となっているが、それでも紹介しようとするのは、この童話集にアンネの見ていた夢があふれていると思うからだ。そして、子ども達が夢を持つことの大切さを痛感するからだ。
 リタ、イヴ、キティ、キャッシー、クリスタ、自分と同じ位の年齢の様々なタイプの少女を描きながら、アンネはその少女たちの成長していった未来に自分の未来を重ね合わせていたのではないだろうか?活発で夢見がちな「キティ」の最後は「キティ!いったいどこへいっていたの、そんなところにすわって、夢でもみていたんでしょ?さぁ、早く、おやすみなさい!」というお母さんの声に、「せっかく、キラキラと輝くような未来を夢みていたのに、とんだじゃまがはいってしまったわ!」というキティの心の声で終わっている。
 又、母親からも友達からもいじめられていたキャッシーは友達にはおかしを、母親には銀製の指ぬきを買ってプレゼントしようとするが、帰り道、お菓子だけを取り上げられて友達から仲間外れにされる。草むらで泣きくずれていたキャッシーのバスケットからは指ぬきが落ちてしまう。このお話は最後まで救われない気がする。けれど、「草むらの、とある所で、指ぬきが、キラッと光りました」という最後の一文にアンネの未来への希望が託されているようだ。
 「恐怖」という短いお話の中に「戦争が終わった今でも、あの時の私のように、まだびくびくしながら、毎日を送っている人はいるでしょう。そういう人はだれでも、大自然をみつめてください」という文章が出てくる。これはアウシュビッツ収容所に送られる4ヶ月ほど前に書かれたものだ。隠れ家生活のただ中で、まさに迫害の恐怖が迫り来るただ中で書かれたものなのだ。ここに、戦争のない未来を希求してひたすら生き抜こうとしたアンネの姿が表されていると思う。
 このアンネの童話集は、今、中川李枝子さんの訳で『アンネの童話』として文春文庫から出ているようだ(残念ながら今ではこの本も絶版となっている)。どうか、多くの方が手に取って下さるように。そして、次の世代に手渡して下さるように。


© Rakuten Group, Inc.